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   ゾロの腹部に渾身の蹴りを入れた直後、アホな考え事で集中力を欠いたサンジは、床に無造作に転がる

   酒瓶の上へ着地してしまった。身体と一緒に滑った軸足までが空に浮く。

   「うおっ!」

   頭から床に激突……する瞬間。何故か、宙吊りになっていた。

   サンジの鼻先5センチのところで床が揺れている。いや、揺れているのはサンジの身体だったのだが。

   置かれた状況に気づいてサンジは愕然とした。

   自分の右足首をゾロが右手で握っていた……サンジは片手1本で持ち上げられていたのだ。

   ウエイト差があると言っても、二人はほぼ同じ身長なのに。

   「こらっ、クソ剣豪、離しやがれ! 」

   「馬鹿っ暴れるな!落とすぞ!」」

   見る間にサンジの顔が赤くなった。頭に血が上ったのは、逆さ吊りのせいだけではない。

   同じ男として、片手であしらわれるのは、とてつもない屈辱だった。

   駄目押しで、ゾロはこんな事まで言う。

   「お前、本当に軽いな。飯、ちゃんと食ってるのか? もっと肉つけね〜とマズイだろ?」

   サンジの顔がついに赤を通り越して、ドス黒くなった。

   宙吊り態勢のまま、床につけた右手で重心を取ると、徐々に身体にひねりを加え、その反動で……。

   「でめぇ〜にだけは……」

   「あん?」

   まるでコマのように全身を回転させると、ゾロのわき腹を鋭く左足で蹴り上げた。

   「てめ〜にだけは、飯の事で文句言われたかね〜や!!」




   キラリン〜☆

   一番星が輝き始めた夜空。

   そこをまるで大気圏に突入した隕石のように加速しながら、ゾロは海の向こうへ飛んで行った。

   5キロほど先で白い水しぶきがあがる……そこがゾロの着水ポイントらしい。

   「うわ〜〜ゾロ!!」

   チョッパーが泣き叫ぶ中、サンジは満足そうに、タバコに火をつけると一服し始めた。

   まるで一仕事終えたサラリーマンのようだった。

   咥えタバコにし、床に散乱した酒瓶や空いた食器を抱えると、鼻歌を歌いながら厨房へ行ってしまった。



   それまで、甲板の少し離れた場所でチェアに腰掛け、夜風にあたっていたロビンがそっと口を開く。

   「変わっているのね? これはパーティの余興か何かなのかしら?」

   「あんた……本気で言っているの?!」

   ナミの眉間に青筋が入る。そして、甲板の隅に座って、何だか嫌な雲行きになってきたので、

   ビクビクしているウソップへ振り向くと、怒鳴り始めた。

   「ウソップ、ゾロを連れて来て!!」

   「えっ!オレが?!」

   「アンタしかいないでしょ!みんな泳げ無いんだから」

   (お前も泳げるだろ〜ナミ。……って言うか船出せよ!こんな距離泳げるかよ!)と

   心の中だけで突っ込むウソップだった。怖くてナミにはとても言えない。

   こんな時に貧乏クジを引くのは必ずウソップになってしまう。

   「あ〜〜〜海に出てはいけない病が……」

   ウソップがいつものように言い訳をかましている最中。

   甲板のヘリを踏みつけるようにして、ずぶ濡れのゾロが這い上がって来た。

   「うわ〜〜ゾロ!!」

   鼻水をたらして泣くチョッパーと、ゾロの鬼のような形相にビビリまくるウソップが声を上げた。

   「見事な泳ぎっぷりね、剣士サン」

   そして、関心したように微笑むロビンだった。5キロを2分弱で泳ぐのは鮫よりも速いだろう。

   「なんだ? ゾロ泳いだのか? 気持ち良さそうだな〜海水浴か?」

   食い物に夢中で、状況がさっぱりわからないルフィは、能天気にそう言った。

   すかさず、ナミに拳骨を3発も叩き込まれてしまった。


   グランドライン広しと言えど。

   誕生日の祝いの席で、主賓が蹴倒されたあげく、着衣のまま遠泳させられるのは、GM号くらいに違いない。




                                    
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